この記事は民主主義シリーズ第2回のものです。前回のURLは以下のものを参照してください。
前回は、どのようにして政治が新自由主義と結びついたかを解説しました。
まだ、前回の記事を読まれていない方は、前回の記事を読まれることを推奨します。
今回は、新自由主義が民主主義に与える影響について解説していきます。(とりわけ、新自由主義は民主主義に負の影響を与えるものと思われる。)
1.新自由主義の正体
前回の記事でも解説したのだが、改めて新自由主義とは何かを解説したいと思う。
新自由主義とは市場経済を重視して、政府による個人や企業の経済活動への規制を極力小さくする考え方で、大きな政府よりも小さな政府を目指したものである。
そして、もう一つ公共選択論という考え方があって、これは「人間は経済的な自己の利益を最大化することを目的として行動する」ということを基本にした理論で、この考え化を政治や民主主義にまで適応させようとしたものである。
で、この公共選択論は新自由主義と相性が良く、新自由主義における個人も「自己の利益を最優先するもの」とされる。
さて、新自由主義の考え方をざっと伝えたのだが、この考え方は民主主義に大きな負の影響をもたらす。
その影響については様々なものが挙げられるのだが、ここは以下の3つに焦点を絞りたいと思う。
・政府そのものが自らの利益を求めるようになる
・小さな政府を突き詰めていくことによる民主主義への影響
・人が資本として見なされる
2.自らの利益を追求する政府
まず、なぜ新自由主義によって政府は自分の利益を追求するようになるのか。次に、政府が自分の利益を追求するとどのようなことが起きるのかを解説する。
先ほど、例を挙げた新自由主義は公共選択論と相性が良いのだが、その公共選択論の意味通り、政府は自らの経済的な利益を最優先で追求するようになる。
となると、政府は利権と結びつこうと考える。なぜなら、新自由主義下では自己の経済的利益が最優先だからである。政府が利権と結びついて行おうとすることとして、マスメディアを通じた情報操作などが考えられる。
で、そのマスメディアは政策の核心には触れずに、偏向報道を流すようになり、政治がシニカル化し、市民の中に不甲斐なさのようなものが政治に対して感じるようになる。すると、政治への白け(しらけ)が起こり、政治への関心がすり減り、投票率も減少していくといった現象が起きる。
そもそも、政治は政府自身の為ではなく、国民の全体の生活を豊かにするためにあるもので、それが民主主義だと思うので、公共選択論の考えを政治と結びつけることは政治への白けに繋がってしまうのではないかと思う。(公共選択論では政府も資本として捉える)
3.小さな政府を突き詰めていくことによる民主主義への影響
新自由主義では小さな政府とすることにより、個人や企業の経済活動への規制をなるべく小さくするという考えである。
そのためには、例えば公共サービスを民営化するようになる。しかし、公共サービスを民営化することはそれが営利の法則、言い換えると自らの利益を求めて公共サービスを運営するようになる。これは、民主的コントロールが及びにくくなることを意味し、民主主義の赤字として問題視されている。
また、グローバル化が進む中、一国の決定が他国の状況によって制限されるという状態になっているので、政府にできることが少ないと思われるようになり、ますます小さな政府へと縮小するようになる。
そして、小さな政府化が進み新自由主義が浸透していくと、新自由主義的な利益第一の考え方は「国、学校、博物館、大学、医療機関、グローバルな法律…」と利益第一になると色々と問題になりそうな分野まで浸透しかねなくなる。
4.人が資本として見なされる
次の章に入る前に、民主主義の原理について一度考えてみる。民主主義は多数決の原理に従っていて、当然だが、多数が少数よりも優先される。それで、現代社会は巨大化しているので、世論の支配力というものは社会における多数として強大な力を持つようになる。
そこで、新自由主義について考えてみると、新自由主義では経済的な競争を促進化させる狙いがあるので、経済競争が激化する。となると、経済格差が深刻化することは避けられない。つまり、経済的弱者が生まれてしまうのである。
ところで、現代社会は巨大化しているので、多数の力が強いという話はした。すると、少数となる経済弱者は多数から排斥される(自己責任論)ようになり、社会の分断化が進む。また、人種など文化的側面での少数者の問題と経済的な少数者との問題が絡み合い、より一層社会が分断されてしまう恐れがあるのではないか。
社会にはどうしても少数が現れ、民主主義では弱い立場であることを踏まえると、新自由主義ではより一層格差を広げるようになってしまうため、民主主義の空洞化を促進させてしまう一因になってしまう恐れもある。
また、新自由主義下では能率中心の管理社会のようになり、さらに人は自己の利益を最優先する利己的な資本として位置づけられるので、生きていく上で、人に息苦しさのようなものを与えかねない一面を持つ。これは現代病の要因の一つとして数えられるのだと思う。
5.まとめ
今回の記事では、新自由主義が民主主義と社会に与える影響について解説した。新自由主義は民主主義に負の影響を与え、社会の分断化を促進させてしまう一面があるという事が分かったかと思う。
次回はどうすればこの新自由主義が浸透している社会から民主主義を取り戻せるのかを考えてみる。
6.引用文献
森政稔「変貌する民主主義」ちくま書店、二〇〇八年
コリン・ヘイ/吉田徹 訳「政治はなぜ嫌われるのか 民主主義の取り戻し方」岩波書店、二〇一二年
ウェンディ・ブラウン/中井亜佐子 訳「いかにして民主主義は失われていくのか 新自由主義の見えざる攻撃」みすず書房、二〇一七年
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